縁側で恋を始めましょう
5・


「どうしたんだ、それ」

社員食堂でお昼の冷たいうどんをすすっていると、お盆を持った笹本が空いていた隣に座った。
それ、と言われた指先は私の首元を指している。
ブラウスの襟と下ろした髪の毛で目立ちにくいが、笹本は目敏かった。

「ちょっと、虫に刺されて」
「へぇ、大丈夫か」
「うん」

心の中は全然大丈夫ではありませんよ……。
キスマークなんて何年ぶりだ。今までの彼には、目立つところにつけないから困ることはなかった。
思わずため息が漏れる。

「どうしたんだよ」
「何でもないよ」

即答する私に、笹本が箸を置いてじっと見返した。


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