ホテル王と偽りマリアージュ
ヌクモリ
一哉が不在なら、私は自由の身!というわけじゃない。
日曜日の深夜便で一哉がニューヨーク出張に出掛けた後、私は一人で『一哉の妻』の役割をこなす羽目になったのだ。


普段の日中は、オフィスで決算書やら請求書やら領収書やらを相手に、数字相手のお仕事に専念出来るのに、会食とか来客対応とか、一哉の代わりに出席するよう、彼の両親から言われてしまった。
おかげで私は、オフィスと様々な場所を往復しなければならなくなった。


皆藤グループの現トップ……つまり私にとってお義父さんと一緒にホテルの客室棟に出ることも多く、服装やメイクも毎日気にしなければいけない。
お義父さんに一哉の妻として紹介され挨拶する相手は、経済産業界のトップばかり。
そんな人たちに『お噂はかねがね』なんて言われ、さすがに身が竦む思いだった。


こうして遠慮なく連れ回されてみると、一哉が出来る限りセーブしてくれてたのがよくわかる。
私が仕事を続けてるせいかもしれないし、夫婦として振る舞う場所を最低限にしたかったのかもしれない。
どっちにしても、一哉の『妻』は、仕事を続けながらこなせる役割ではないことを痛感した。


同時に、一哉の存在の大きさを思い知った。
一哉がスマート過ぎて気付けなかったけれど、エスコートされている時、心細さを感じたことはない。
彼がフォローしてくれていたから、気負いもせず、開き直ることも出来たんだ。
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