ホテル王と偽りマリアージュ
サッカク
日曜日の午後には私の熱も微熱程度にまで下がった。
もちろん私はどこにも外出出来ずに、その週末は家で過ごした。


一哉も出張疲れか、一日中書斎に籠っていた。
リビングにいると時々中から英語で話しているのが聞こえたから、帰ってきたばかりなのに仕事をしていたのかもしれない。


私たちの他には誰もいない。
『夫婦』を演じる必要はなく、それぞれ思い思いの休日を過ごせたはずなのに、家の中に漂う空気はぎこちなかった。


人目がなければ別行動が私たちの基本スタイル。
たとえ家の中に一緒にいても、相手を気にかける必要はないのに、私はずっと一哉の気配を意識していた。


一哉の言動に引き摺られて、惑わされる。
私がこうして一哉を意識しているのは、全部彼の本心がどこにあるか見えないからだ。


私が一哉から感じる嫉妬も独占欲も優しさも、全て契約外の物。
私が彼からもらうドキドキも、きゅんとしてときめくのも、全然必要のない感情のはず。
なのに、あんなことされたらわからなくなる。


ずっと閉ざされたままの書斎のドアのおかげで、私は辛うじてこれ以上心を揺らさずにいられた。
同じ家の中で過ごしていても、私たちの間には隔たりがある。
これが、契約通りの私たちの結婚生活だ。
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