魔法使い、拾います!
第二話 ケガの理由
家の二階のキッチンで、リュイは野菜たっぷりのスープを作っていた。家の中にヴァルの姿が見えないが、今日のマーケットを棒に振った事を思い出して追い出した訳ではない。

ケガが治って動けるようになった彼に、汚れを落としてはどうかと湯浴みに行くことを提案したのだ。二つ返事で提案を承諾したヴァルは、着替えを携えて町の浴場に出かけて行った。

気がつけば、夕方に近い時刻になっている。自分のお腹も空いているが、きっとヴァルもお腹を空かせて帰って来るに違いないはず。そんな事を思いながら作る料理は楽しくて、リュイの心は弾んでいた。

渋々ながらに請け負った宿主ではあったが、内心、強引に居座ってくれたヴァルの言動が嬉しくもあった。久しぶりに誰かのために何かをすることや、純粋に一人ではない食卓が待ち遠しかったのだ。

「あるじー?」

一階から呼ばれたリュイは、その声を聞いて心が沸いた。誰かが帰ってくる。そんな些細な感覚をすっかり忘れていた。

小走りで階段に駆け寄り手すり越しに一階を覗き見る。ヴァルの姿を確認したリュイは、踊りださんばかりに気持ちが弾む。

「主、ただいま戻りました。」

今まさに階段を上ってこようとしているヴァルが、にこりと笑った。

湯浴みから戻ったヴァルは、まるで舞台役者かと思うほどの極上品に変身していた。もともと顔立ちが良い上に整った体型の彼は、汚れを落とせば想像を遥かに超えた素敵さである。しかしリュイはクスクスと笑いが止まらない。

「やっぱり父さんの服はヴァルには小さかったね。直ぐに用意できる男物の服がこれしかなくて、ごめんね。グレンに借りても良かったんだけど。」

着ていたシャツはおへそが見えそうだし、ズボンの足はくるぶしが丸見えだ。
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