栞の恋
現実的展開
入り口近くにある、長いレジカウンター。

通常は、等間隔に5つのレジが開いているのだが、平日のこの時間。そのうちの手前の2つだけが、稼働している様子。

数名いるレジ待ちの列の、最後尾に並ぶ。

…と、栞の前に並ぶ女子高生のその前に、先ほどの(油ギッシュじゃない方の)黒縁眼鏡さんが並んでいた。

ドキッ…。

先程は向かい合わせだったからか、なんとなく身長差を感じず、小柄な印象だったけれど、前の女子高生の頭上1個分近くは見えているので、実際のところ、決して低いわけではなさそうだ。

上は白い生成りのシャツにダークグレーの薄手のニットベスト。下はブラックの細身のジーンズに濃茶のモカシンシューズ。

少し緩いパーマがかかる黒髪に、例の太めの黒縁眼鏡。

男性にしては色白の肌で、無精ひげが一見だらしない印象を与えるが、着ているものや靴のセンスの良さと清潔感が際立って、不快な感じはしない。

“平成の文学者”って感じね。

栞が思わず、人物観察していると、手前の1番レジが空き、彼の番になる。おもむろにカウンターに乗せた本は、およそ10冊近くあるだろうか。

何気なく購入する本をチェックしてみると、特にジャンルの統一性はなく、文学書からSF小説、時代小説からアイドルが書いた自叙伝まである。

平日のこの時間、比較的ラフな服で、大量に本を購入。

いったい何をしている人なのだろう?

ふと財布を持つ左手の薬指に何もしていないことを確認してしまい

“どこ見てんのよ、私ったら”

あわてて視線をそらす。

もちろん、今時、指輪をしていないからといって、独身ということではないのだけれど、なんとなく家庭を持つ雰囲気はなかった。
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