【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

新たなる情

足早に自室へと戻ってきたキュリオは先に到着していた女官や侍女へ声をかける。

「朝早くからすまない。予想外の予定を入れてしまった。
食事を済ませたら彼女たちには帰ってもらうが、そのあいだアオイに何かあったら遠慮なく私を呼んでほしい」

「……かしこまりましたキュリオ様。お嬢様は私たちにお任せください!」

にこやかに、そして頼もしく頷く女官に抱かれたアオイは心地良い睡魔に誘われているようで、キュリオの衣に包まれながら彼に抱かれている優しい夢を見ている。

「あぁ、よろしく頼む」

微かに笑ったアオイの寝顔にキュリオが微笑むと、女官や侍女らは後ろ髪を引かれる思いで赤子を抱いて別室へと移動を開始する。静かに閉じた扉を見送ったキュリオは重い足取りのまま、クローゼットに手をかけた。

「…………」

(これが私情というものか)

珍しく銀髪の王の心に渦巻くのは苛立ちに似た不快な感情だった。
己の気持ちがどうであれ、悪意のない民の願いは聞き届けなくてはならないことは十分承知している。今までのキュリオは優先するべき対象を民としていたため異論はなかった。しかし、愛を注ぐアオイという存在を得たキュリオは今、自身のなかの小さな発見に目を見張る。

「このような感情を私が抱くとは……」

(厄介というべきか、それとも…………)

小さな赤子がこのような感情を芽吹かせたのだと思うと胸の奥がくすぐられるように疼き、それもまた悪くないと思えてしまうのだから不思議なものだ。
 しかし、これから向かう場所に彼女はいない。キュリオは本日何度目かになるため息をつくと、適当に取り出した衣に袖を通し部屋を後にしたのだった。

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