【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

ダルドの能力

さすがは手練れのロイ。仕事に入るとおっとりした気質一転ガラリと変わった彼の雰囲気。
女官に抱えられた幼子の細部に渡り隅々まで調べ上げていく。

すると、少し離れた場所でその様子を見守っていたキュリオのもとへ新たな職人の到着を知らせる声が届いた。

「キュリオ様、鍛冶屋(スィデラス)のダルド様がお着きになりました」

「ご苦労。すぐ行こう」

踵を返し扉へ向かおうとするキュリオの姿をひとつの視線が追いかけてくると、その眼差しに気づいた彼は穏やかに微笑みながら小声で囁く。

『またあとで』

赤子の居る部屋の前には屈強な剣士を二人配備し、部外者は立ち入れぬよう護りを固めながらキュリオはそっと部屋を後にする。

――足早に鍛冶屋(スィデラス)の彼が待つ一階のテラスへ向かうと、白銀の長髪に風を受けながら中庭のほうをじっと見つめている人型聖獣の姿を見つける。

「久しぶりだなダルド。よく来てくれた」

キュリオの声にピクリと耳を動かした彼はゆっくり振り返り、その幻想的な銀色の瞳で自身がもっとも尊敬する悠久の王へと向き直った。

「キュリオ王、此度はお呼び頂き誠にありがとうございます。このダルド、身に余る光栄でございます」

片手を胸に当て優雅に頭を下げたダルド。聖獣の彼はとても誇り高く、他人へ頭を下げることを嫌うがキュリオだけはやはり特別だった。

「礼を言うのはこちらのほうさ。ありがとう。君を心から誇りに思っている」

顔をあげたダルドはキュリオと固く握手を交わすと、歩き出したキュリオの後ろをゆっくりついていく。

「早速だが、依頼の内容は伝わっただろうか?」

しばらく歩いたのち、歩調を緩めたキュリオはダルドの隣に並ぶと空色の瞳を前方へと向け、ダルドの視線をとある場所へと促した。

「くっそぉっっ! 痛いってぇーっ!!」

そこには木刀を握りしめながら脳天に一撃をくらった少年が、涙を目に溜めながら頭を押さえしゃがみこんでいた。

「ん? なんだカイッ! 相変わらずいいのは威勢だけか!!」

いつかと真逆の立場となった教官のブラストは声高らかに満面の笑みで見習い剣士のカイを諌(いさ)めている。

「チ、チクショーッッ!!」

木刀を杖代わりにして立ち上がったカイはブラストへの反撃を開始する。……が、素人にもわかるめちゃくちゃな木刀捌きにダルドは沈黙の後、ポツリと呟いた。

「……まさか彼の?」

「あぁ、彼の名はカイ。いまはまだ小さな力だが、私は期待しているんだ」

「……まだ剣も扱えない子供になにを見出したの?」

ダルドの言葉に笑みを浮かべたキュリオはカイとブラストのやり取りを楽しそうに見守っている。

「私が必要としてるのは剣の腕だけじゃない。あの瞳が宿してる強い輝きなのさ」

ブラストに軽く木刀を払われ、転びそうになりながらも負けずに立ち向かう傷だらけの見習い剣士のカイ。
しかしダルドはよく見るこの手の光景に騙されたりはしない。彼の銀色の瞳はカイの心を見透かすように睨んでいた。
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