【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

整いゆく準備

 はやる心を抑え、必死に初心者用の剣を振るうカイの額には大粒の汗がにじみでている。彼はいままで幼すぎるという理由もあって木製の武器しか手にしたことがなく、体力と気力を抜いてしまえば食欲しか取り柄がなくなるほどの普通の子供なのだ。
 そんなまだまだ未熟な彼へ、王直々の命が下ったのはつい先ほどのこと。

(……キュリオ様はなぜカイを……)

 カイの師である教官・ブラストは、愛弟子が鍛錬に励む姿を離れた場所で腕組みをしながらひとり考える。
 人手不足とはまず考えられないため、カイでなくてはならない何かがあるのだろう。しかし、年端もいかぬ見習い剣士が王の役になど立てるだろうか? その一点にブラストの意識は集中し、キュリオの真意を掴めずに頭を悩ませている。

(ダルド様まで動かすとなると……やはりキュリオ様にお仕えするということか?)

「……まさかな」

 自分の考えが大きく外れていることはブラストにもわかる。
 憶測で物を言っても無駄に悩みが増えてしまうことは十分承知しているつもりだったが、これほどまでにカイが心配なのは……やはり彼の教官として常に傍で見守ってきた親心のようなものかもしれない。

「おい! おっさん!!
いつまで休憩してんだっ!」

 練習の相手をしろとばかりに大声をあげてこちらに向かってくるカイをみて、ほんの少しの寂しさが込み上げてくる。

「もう少し……この手でデカくしてやりたかったな」

 軽く見てもあと十年はこの師弟関係が続くと思っていたブラストと……

「あ? なに言ってんのかわかんねぇよ! 俺はもっと強くなりたいんだっ!!」

 意気込んで詰め寄るカイの胸中が真逆に等しいのは明らかだった。
 幼い弟子を心配するあまり複雑な思いを抱いた彼は邪念を振り払うように、ここ一番の声を張り上げた。

「はっはっ!! すぐに強くなれるわけないだろうっっ!! お前はまずその口の訊き方をだな!!」

「ぐぇ……っ!! いででっ!!」

 ブラストの大きな手にグリグリと頭を撫でられ、みっちり剣士としての心構えと立ち振る舞いを嫌というほど聞かされたカイだった。

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