【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

先代セシエル王と幼き日のキュリオ

 ――そして人の世界でいう午前十時。
 悠久の城でもっとも最奥にある分厚い水晶(クリスタル)に覆われた巨大な広間が開け放たれた――。

 城のまわりに並ぶ樹木の十倍はあろう高さの天井は抜けるような空の青をうつしており、足元には白水晶が敷き詰められている。その風景はまるで天空にいるかのように幻想的で、言葉どおり空気も清々しく冴えわたっていた。

 日の光を優しく透かすように煌めく広間の中心、王の言葉に集った数万の城の従者が階級ごとに整列していた。
 やがて扉が開き、姿を現した人物は三人。鮮やかな紅の絨毯の上を正装したキュリオが颯爽と歩き、その腕のなかには不思議そうにあたりを見回している赤ん坊と、その後ろに続くのは大魔導師ガーラントだ。

「……?」

 キュリオの袖を掴みながら後方へ視線を注いだアオイ。すると四十代の屈強な剣士と視線が絡んで。

「……」

「……っ!」

 キラキラした宝石のような瞳が自分を見つめていると気づいた彼は、物心ついた頃から仏頂面を決め込んでいる硬く強張った岩のような顔に不慣れな笑みをのせた。しかし、泣く子も黙る百戦錬磨の剣士の眼光は鋭く、隣の剣士の目には敵に向かってくらわせる挑発的行為のようにうつっていた。
 その引き攣った男の笑顔をしっかりその目に留めたアオイは泣くかと思いきや――

「きゃあっ」

 どうやら小さな天使に努力は伝わったらしい。
 静寂に包まれた厳かな雰囲気のなか、彼女の笑い声が綿あめのように甘く包んだ。

「うん? 私のプリンセスは今日もご機嫌だね」

 肩越しに声をあげる愛娘を愛おしげに見つめながら目先にある王座へと視線をうつし、五百年以上も前のあの日を思い返す。

(この広間を開けるのはセシエル様の退位式兼、私の即位式以来か……)

 ――自分が次代の王になるとは夢にも思わなかった。セシエルと悠久を守る<魔導師>としてやってきた幼少のキュリオはまだ四つになったばかりの子供だった――。

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