【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

己の小ささ

引きずられるように死の国の門から離されていくアレスとブラスト。カイは何とか震える足を踏みしめながら、ひとり気丈に彼らの後ろをついてくる。

「王様ってのは皆、ああなのか……?」

あまりの衝撃に顔を上げられずカイは足元を見つめながら口を開いた。するとテトラが振り向き、心配そうにカイの表情を伺う。

「キュリオ様だってそうさ……普段はそのお力を抑えておられるだけで、警戒したり力を使えばあれ以上のはずだ」

「あ、あれ以上……?」

(あの優しそうな王様が……)

脳裏に浮かぶ慈愛に満ちた眼差しのキュリオと死神のような冥王を重ね、カイは信じられないといったように動揺し、その不安そうな視線を彷徨わせる。

「すまなかったな……俺が居ながらお前らに怖い思いをさせてしまった」

だいぶ落ち着きを取り戻したブラストは肩を借りていた魔導師のノエルに礼をいうと大きく深呼吸する。
するとテトラに支えられていたアレスは立ち止まり、申し訳なさそうに目を伏せる教官へ向き直った。

「……いいえ教官、私のかわりに前へ出てくださったではありませんか。私たちの盾になろうとしてくださったこと、すぐにわかりました」

「そ、そうだぜ! おっさんっ!! 殺されるかもしれねぇってのに……堂々としててかっこよかったぞ!!」

カイも教官のその頼もしい背中をずっと見ていたからこそ言えることだった。

(俺なんて……足が竦んで腰抜かして……ほんとバカみてぇ……)

小さいながらも戦わずして大敗を期したカイは、己の無力さに涙が溢れそうになる。

(俺は悠久の剣士だ! あんくらいの化け物相手に戦う日が来るかもしれねぇんだっ!! 絶対強くなってやる!!)

強く唇を噛む小さな剣士は己の心と必死に戦っている。力の差を見せつけられた彼だからこそ、奢れることなくこの先目覚ましい成長を遂げることになる。

 一行は再びアレスを先頭に加護の灯を掲げ歩みをすすめる。
最後の門をめざし行く先へ視線を向けると、そこには大きな岩でできた巨大な門が荒々しいその姿を現していた。

気を取り直したブラストは懐かしそうにその門を見つめ口を開く。

「あれは雷の国の門だ。王の持つ<神具>は槍。彼は<革命の王>と呼ばれている。そしてもうひとつの名は……」

さらにブラストが続けようとすると威厳のある別の声がかかった。

「<雷帝>と呼ばれている。俺の名はエデンだ」

「……っ! ……この声はっ……」

貫禄を備えたような重みのある声にアレスとカイは身を固くし、構えるように体勢を低くする。するとブラストが小さく笑い彼らをたしなめる。

「お前ら安心していいぞ! エデン王は危険なお方じゃないからなっ!!」

ふたりの肩に勢いよく手をのせてやると、ほっとした彼らの体から力が抜けていく。そして安堵する一同の元に大きな気配が近づいてきた。
やがて雷の国の門から堂々たるその姿を現したのは――

「久しぶりだなブラスト」

長身のブラストよりもさらに大きく、美しく磨き上げられた白銀の鎧の下には見事に鍛え上げられたバランスのよい筋肉が隆起しているのが遠目からでもわかる。異空間はとても暗いが、彼の姿がよく見えるのは内側から放たれている彼自身のオーラだということがわかった。







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