【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

君の虜

「アオイ、まもなく他国の王から返事が届く。……しかし、その結果がどうであれ私はお前を手放すつもりはない。
もし君に本当の家族がいたとしても……私の傍にいてくれるかい?」

「……ぅ、っ……」

鼻を鳴らすようなか細い声をあげ、戸惑いに瞳を揺らした赤子は、血の繋がりのない悠久の王の胸に飛び込むことを躊躇っているようにみえる。

「こんなことをお前に聞いて……#狡__ずる__#い私を許しておくれ」

(……是非もわからぬ赤子に選択を迫るわけにはいかない。彼女の両親が出てきたら面と向かってこの子を引き取りたいと申し出よう)

柔らかな彼女の髪に頬を寄せ小さな背中を優しくなでるキュリオ。すると、ふわりと垂れ下がるフードの飾りに手が触れて――

「……?」

首を傾げながらアオイの背後をのぞきみる。そして、指先に感じる柔らかで長いそれを持ち上げてみると、視覚外でモゾモゾと動くキュリオの手が気になったアオイが不思議そうに顔をあげた。

「……これは……ラビット?」

淡いピンクの耳を持ち上げまさかの光景に驚く。そして理解できずにいるアオイもまた、目を丸くして彼の空色の瞳を食い入るように見つめている。

(……女官たちの仕業か。しかし、悪くない)

「気に入らなかったら言っておくれ」

白く透き通るような赤子の肌に、ピンク色の頬と唇。そしてこの着衣はとても彼女の雰囲気に合っていて、その飾りさえもアオイ一部に見えてしまうほどに可愛らしかった。キュリオは手に収まってしまうほどのフードを広げ、彼女の頭にそっとかぶせる。ぐずってしまわないかその表情に細心の注意を払いながらの優しい手つきだった。

「あぁ、なんて愛らしい。天使のようだ」

きっと女官たちがこの場にいたら同じ言葉を発しただろう。普段そのようなことは感じないキュリオさえ、湧き出る感情に抗う事ができない。さらに、頭上で目元を綻ばせる銀髪の王につられて赤子が嬉しそうな声を発する。

「きゃはっ」

はしゃぐような明るい声を上げ、頬を染め目を細めるアオイ。そんな何気ない声と表情にもキュリオの心は愛おしさに震える。

「ふふ、そんなに可愛い顔を向けられたら……私はお前の#虜__とりこ__#になってしまうよ」

再び頬を重ね合わせ、一秒ごとに募る愛しさと、近づく距離を実感していると――

「……アオイだと? 書簡にあった身元不明の赤ん坊とは別人か……?」

 キュリオの記述にあった赤子の情報といえば……"発見された場所と日時、あとは特徴となる容姿のみで、他に名前はおろか手がかりとなる物は一切所持していない"とあったはずだ。

(それにしても……あんな風に笑うやつだったか?)

滅多に感情を表さないといえば<精霊王>が有名だが、それに次ぐ<悠久の王>もかなりの堅物という印象が強い。

「もしくはキュリオの特別なガキか……」

遠い樹木の上からそう囁く彼の背には漆黒の翼があった――。

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