【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

使者の帰還

――その頃、悠久の水晶門を通過し馬を駆る五人の姿があった。最前線を行くのは教官のブラスト。彼は日の沈み具合から予定の時間を過ぎていることに気づいたが、一定の速度を保ちながら進む。

「教官、もう少し急ぎますか?」

一頭の馬が平行してきて、その手綱を握るテトラが声をかけてくる。

「いや、これ以上速度をあげると馬に乗り慣れてない後ろのふたりが心配だ。今回は色々あったからな。それに少し遅れたからといってキュリオ様は怒ったりなさらないぞ?」

「わかりました。たしかに悠久内で怪我をしただなんて……使者として恥ずかしいですしね」

納得したように後ろを振り返り、必死について行こうとするカイとアレスを苦笑しながらも優しい瞳で見ている。

「だろっ! それに報告もあるからな! 俺こそ時間が欲しいってもんだ!」

ニカッと笑うブラストは、帰還後に使者としての報告が待っている。彼はその行為事態初めてではないが、今回は他国の門番たちにからかわれたり間接的ではあるが王と対峙(たいじ)したりと稀なことが起きたため彼自身少々困惑しており、頭の中の報告書が半分もできあがっていない状態なのだ。

「そうでしたね。冥王からの返答もありますし……と、そういえば……」

にわかに疑問の色を浮かべたテトラは考えるように眉間に皺をよせ、ブラストへ問う。

「<心眼の王>は目も通さず書簡の内容を見ることが出来るのですか?」

「ああ、それは俺も思った。だがな、冥王はアレスの心を読んでいたとみて間違いない。おそらく本人の気づかない思考の部分、もしくは記憶さえ読み取ることができるんだろう」

この世界の五人の王たちがどれほどの力を持つのか、本人たちがその力の詳細を口にしないため全て仮説になってしまう。ただすべての王に言えるのは、大きな力を発揮する際に<神具>を召喚することだ。そして、冥王が常にその神具を手にしているということは、いつでもその強大な力を解放できる状態にあるということだった。

「そうか、……そういうことなら#辻褄__つじつま__#が合いますね。もうひとつ仮定ですが、もし前世の記憶とやらが魂に刻まれているとしたら……魂を狩る冥王ならば、その記憶を読み取ることも可能かもしれませんね……」

「む? なんだテトラ。お前そんな研究してるのか?」

そういうブラストの言葉にテトラは首を傾げる。

「え……? 悠久の謎を解くための手がかりになるかと思いまして……ご存じないですか? #一角獣__ユニコーン__#の言い伝え……」

ふたりが神妙な話をしているのを小さな魔導師と剣士は耳を欹(そばだ)てて聞いている。

「なんだよ、また難しい話か」

カイは話についていくことを諦めた様子で深くため息をついている。

「そんなに難しい話かな? 後半のテトラ先輩の話までになると、どうだろう……って感じだけどね。さっきの#一角獣__ユニコーン__#の話、最後まで聞こえなかったな……」

頭の良い魔導師の彼は興味深そうに前の二人の話に夢中になっている様子だった。考えることをやめてしまったカイと、"あとで先生に聞いてみよう"と、しっかり記憶に留(とど)めたアレス。対照的な二人をさらに後ろから見ていたノエルは(どうしてこうも魔導師と剣士の性格はいつの時代も変わらないのだろう)と笑いを堪えている。
五人がそれぞれ思考を巡らせているうちに、淡く輝く悠久の城が視界で確認できるほど近くに迫ってくる。

「よし! お前たちっ!! 城に帰るまでが使者の勤めじゃないぞ! 報告が終わるまでが使者の務めだからな!!」

背後を振り返りながら馬を走らせるブラスト。その言葉に<革命の王>の言葉が重なり、はっとするカイ。

"立派な悠久の剣士になれ。役目を与えられて一人前というものではない。やり遂げてこそ一人前というものだ"

「おぅ! わかってるぜ!!」

と、一際気合の入ったカイの声が夕暮れの悠久の空へこだまするのだった。

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