【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

"個人差"という言葉に心救われて…

キラキラと輝く温かな湯船に浸かると、キュリオ
の脳裏をとあることが過り動きを止めた。

「お前が年頃の娘になったら、共に眠り共に湯浴みをするのは考えものか?」

「うーん」と顎をおさえながら、まだ女性として未発達の丸みのある小さな体を視界にとらえる。下心などあるわけがなくただこの子が健やかに成長し、いつまでもその柔らかな笑顔を間近で見守ることが出来たら……と考えていたのだが、それだけではいけない。

「いずれアオイの部屋と湯殿も用意しなくてはならないか……」

自分で口にしておいて、わずかに寂しさを覚えるキュリオ。彼はすでに親離れ、子離れの話となると軽いストレスを感じてしまうほどに、この赤子を溺愛しはじめている。

(……これが娘をもつ父親の心境というものなのだろうか?)

いまとなっては彼女の肉親を探す必要もなくなり、気兼ねなく"この子は自分の娘だ"と公言することができると安心していたが、父親として向き合ってみると早くも別の悩みが持ち上がってしまった。

「……しかし個人差というものがある。アオイに限っては年頃になっても親離れしないかもしれない……」

"個人差"とはなんて素晴らしい言葉だろう。なんとかその意味合いに心救われながらも、しきりに腕を動かして楽しそうに水面を揺らしているアオイに目を向ける。

「お前の部屋は日当たりの良いところがいい。扉はなるべく軽い素材のものを使うとして、私の部屋とあまり離れていない場所がいいな」

キュリオは手に収まってしまうほどの小さな腕を優しくなで、「とてもじゃないが、しばらくはどんな扉も動かせそうにないな」と呟くと、共に寝起きする正当な理由を見つけ喜びをかみしめていた。

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