【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

<大魔導師>ガーラントの見聞

有り余るほどの豪華な夕食を済ませた使者ら五人のうち<教官>ブラストと先輩魔導士二人は、活動報告書作成のためそれぞれの部屋へと引き上げて行った。残されたアレスとカイは十分に満たされた腹を押えながら、思い出したように話しはじめる。

「なぁアレス、結局書簡の内容ってなんだったんだろうな。冥王なんとかって王様んとき"該当者なし"って言ってただろ?」

「うん……私は最初にキュリオ様とお会いしたとき、なとなく先生たちが話している内容を聞いていたから予想はつくけどね……」

するとその言葉を聞いたカイは身を乗り出して話に食いついてきた。

「お前知ってたのかっ! って、直接聞いてない俺はそれを聞いてもいいのか……?」

小さな少年は胸に手をあてて己と葛藤している様子だった。見習いの自分が他国とのやりとりを、しかも王が関わる話に首を突っ込んでよいのかなど、身分をわきまえているつもりなのだ。アレスも同じ考えで、ただ自分は居合わせただけで実際に会話していたのはキュリオとガーラントだったため、気軽に他言してはいけない気がしていたのだ。
 しばらく二人が#唸__うな__#っていると、静かな客室に扉を叩く音が響く。

――コンコン

いち早く反応したアレスが扉に近づき声をあげた。

「はい、どうぞ」

ガチャ――

「儂じゃ。む、お主ら二人だけか?」

と、顔を覗かせたのは待ちに待ったアレスの師・ガーラントだ。

「ガーラント先生! はい! 教官や先輩方は報告書作成のため部屋に戻られました」

パッと表情を明るくし、大魔導師を招き入れたアレス。するとすぐに給仕担当の侍女が三人分のお茶を手にして入室してくる。

「そうかそうか。食事はもうよいのか?」

まだたくさん残っている皿の上の料理に目を向けると、ガーラントは若い二人の顔を見比べている。

「ええ、もう存分にいただきました。すみません私たちばかり先にいただいてしまって……」

遠慮がちなアレスは申し訳なさそうに肩をすぼめている。彼はキュリオやガーラントたちがまだ執務中であることを気にしているようだ。

「そんなことはいいんじゃよ」

優しい笑みを浮かべるガーラントは手元のカップへ口を付けて、香りの良い紅茶に喉を潤わせる。そしてそれが準備と言わんばかりにゆっくり顔をあげる。

「さて、ブラストの報告もさわり程度にしか聞く暇がなかったでな。詳細は報告書を見るとして……アレス、カイ。お前たちも何か感じることがあったろうて。言うてみい」

「は、はいっ!」

「おうっ!」

それぞれ元気よく返事すると、ガーラントは目を細め"うむうむ"と頷いている。

「あ、あのさっ! 俺、書簡の内容知らねぇんだけど……それって聞いちゃだめかな?」

まず声を上げたのはカイだ。よほど気になっているのか、先ほど口にしていた疑問をさっそく大魔導師へと投げかける。ゴクリと唾を飲みこみ、ガーラントの返事を待つこと数秒――

「……それについてじゃが、まもなくキュリオ様直々に皆へ話されるじゃろう。儂らはただその時を待てばいいのじゃよ」

「そ、そっか……」

そういうガーラントの顔は穏やかだったが、何故かそれ以上聞き返してはいけない雰囲気が彼を包んでいる。キュリオの絶対の信頼を得ている彼はきっと何を言っても口を割らないだろう。大人しく聞き分けたカイは若干気落ちしたように頷いた。

「……しょうがないよな、わかった!」

あっさり終了したカイの質問ののち、今度はアレスが身を乗り出した。

「先生、ブラスト教官とエデン王の関係を聞いてもよろしいでしょうか? お二人は親し気に言葉を交わされていて、私がエデン王の持つ二つ名の<雷帝>について伺ったときも教官は何か知っているご様子で……」

一瞬ピクリと眉を動かしたガーラントの表情をアレスとカイは見逃さなかった。

(いまの反応、先生もきっと何か知っているんだ)

「ふむ。エデン王に会うたか」

大魔導師は何をどう話そうか悩んでいる様子で、豊かな白い顎鬚をゆっくりと撫でている。

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