君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜

「あいつに、優しい顔見せんなよ…」




夏が近づくと、この島は一年で一番賑やかで忙しくなる。

7月の末にある夏祭りに、都会に出ている若者の大半が帰ってくるからだ。
そして、島に残っている数少ない若者はその準備で大わらわだった。



「きゆ、今いい?」


最近、ほぼ毎日、瑛太は田中医院に顔を出した。
瑛太は夏祭りの実行委員長になってしまい、その流れできゆを会計に指名した。
瑛太が無謀にきゆを推薦したにも関わらずきゆは嫌がらずに応じてくれて、でも、瑛太の中では無理やりに推し付けてしまった事をいまだに後悔していた。

少しでもきゆの夏祭りの仕事の負担が減るように、瑛太はきゆの仕事を肩代わりをしたがった。


瑛太は昼休みの時間を利用して、病院へ訪れた。
田中医院も1時から3時までは昼休みなので、その時間帯にきゆに会いに行くのが瑛太の日課になりつつあった。


「瑛太? 今日も来たの?」


きゆが受付から顔を出して瑛太にそう尋ねた。


「ごめん、忙しかった?」


瑛太はきゆの顔を見ると、それだけで元気が出る。
それは子供の頃から何も変わらない。きゆのおっとりしたちょっとテンポがずれている性格を、瑛太は変わらず愛していた。




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