つま先で一歩
つま先と心と
眼下に広がるのはネオンで輝く都会の夜景。

耳に心地よく入ってくるのは外界とは違う空気を醸す優しい音量のジャス。

控えめな照明、話し声も控えめ、馴染めない場所に自分でも頑張ってここにいることは分かっている。

この大人な場所に自分を置きたくて無理をしたことも認めよう。

ここは都内でも有数の高級ホテル、その高層階に位置する気品漂うバーの中だ。

飲み慣れているカクテルも不思議とこの空気の助け合ってか酔いを早くさせてる気がする。

「何か…落ち着かないな。」

「そうですね。」

視線だけで周りの様子を窺った須藤さんに私も激しく同意する。

だって明らかに浮いているような気がするのだ。これってまだまだお子ちゃまだってこと?

「やっぱりあと2年は早かったかも。」

「森川さんの2個上だけど、僕は5年早かったと思ってる。」

「7年はかけたくないです…。」

そんな軽い話をしているが、そもそもこんな背伸びする場所に来ることになった理由は仕事にある。

私たちはデザイン会社の人間、今回もプレミアムコスメ商品のカタログデザインをオーダーされてそのイメージを手に入れようとここに出向いたのだ。

テーマはずばり、オトナ。

最初はあれやこれやと色々意見をいって挑んでいたけど、どれもイマイチ決まらなくて頭を抱えだした。

オトナってなんだろうって。

色合い、形、光、どれをどう組み合わせたら大人仕様になるのか。それを見出だすために足りないものは何かを考えてみたのだ。

完全に煮詰まった私たちはよく分からない話の流れでホテルのバーを体験してみることにした。

まあ私の場合はこれを機に須藤さんと少しでもお近付きになれたらなんて邪ま考えもあったのだけれど、ここは仕事に集中しなきゃね。

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