もう一度出会えたら
まだ付き合って日も浅いし彼の事は知らないことの方が多い。


『これからいっぱい知っていけば良いんですよ。』


「…そうだね。これからだよね」


彼の最寄駅に着き彼が私の荷物を持ってくれる。そしてさっきと変わらず手を引


かれながら駅からマンションまでの道を二人で歩いた。


この道を彼と歩くのは初めて。あの日はタクシーで帰っているはずだから。


この街の記憶には辛い事が多すぎてもう来たくないと思っていたけど、過去と本


当の決別をする事が出来た今はもうここは “涼くんの住んでいる街” になった。


私は確実に前に進んでいるのだ。


あの日鍵もかけずに逃げる様に飛び出したこの場所に彼と一緒に帰って来た。


なんだか随分昔のことの様に感じるけどまだほんの2ヶ月ほどしか経っていない。


あの日を懐かしく振り返りながら、窓から映る綺麗な夕焼け空を眺めていたら


彼が私の背後に立ち、後ろから優しく抱きしめられた。


ドキドキと胸が高鳴る。


『菜々さん、ありがとう』


「ん…何が?」
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