【短編】クラブ・ラグジュアリフロアで逢いましょう
§雪降る夜
ああ……。

顧客との軽い打ち合わせを終えてホテルのロビーでため息をついた。一足早いホワイトクリスマスといえばロマンチックだが、師走の喧騒の中、そんなふうには思えない。

オフィス近くのホテル。ロビーは雰囲気がいいからときどき商談に利用させてもらっている。

12月の中旬、初雪が降ると今朝の天気予報で知った。マンションのドアを開いた瞬間に肌を刺した冷たさにこれは降りそうだと実感したが、積雪1センチなら特に支障はないとたかをくくっていた。

しかし。大きな窓ガラスの向こうにはテニスボールのような大粒の雪がぼさぼさと落ちている。歩道のツツジの植え込みにはすでに綿菓子のような雪。かろうじてアスファルトの上は溶けていたけれど。

電車が止まる前に帰宅したい。まずオフィスにもどって今預かった案件をまとめて、それから明日が期限の社内プレゼンの資料を仕上げて、それから……。

腕時計を見るとすでに17時を過ぎていた。

頭が痛くなってきた。終電でもぎりぎり終わるかという作業内容にため息が出る。たぶん今夜は帰れそうにない。でもオフィスに泊まるのは難しい。昨今の節電事情で居残りは制限されていて、22時にはすべての照明と空調が落とされてしまうから。こんな夜に暖房が切れたら凍死してしまう。

しょうがない。宿をとっておこう。今ならまだ空室もあるだろう。そう思ってフロント前で順番待ちをする列に最後尾についた。

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