11時30分に解ける魔法
11時30分に解ける魔法
 



「起きたのか? 莉音(りおん)」

 遠く離れた場所から言っているらしい声が聞こえた。

 わずかに瞼を振るわせただけだったのに、何故、この人はそんなことがわかるんだろう、と莉音は思った。

 薄暗い部屋の中がチカチカしている。

 視線を巡らせた莉音は、それが窓際に置かれたクリスマスツリーの電飾だと気がついた。

 ……クリスマスツリー。

 しばらくそれを眺めたあとで、正面の暗闇を見ると、まだその残像が瞬いていた。

 なんでクリスマスツリー?

 クリスマスなんて、もうとっくの昔に過ぎたはずなのに。

 それに、今の声。

 莉音は慌てて飛び起きた。

 よく見ると、クリスマスツリーの向かいのソファに男が座っている。

 見間違うはずはない。

 柚木添真(ゆずき そうま)だ。

 いつもとは少し違う雰囲気のスーツを着ている添真の横顔も、ツリーの灯りに照らされていた。

 自分の置かれている状況もわからないまま、綺麗だな、とぼんやり眺める。

「どうした?」
と添真が訊いてきた。
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