不審メールが繋げた想い
・プロローグ
ふぅ……疲れた~…。駄目ね…、もう口癖になってる。これは単に体力的な問題よね。筋肉は落ちる一方……運動とかした方がいいって解ってるけど…。
一人でもただいまって挨拶が先よ。部屋に入ると途端に気が抜けるんだから。はぁ。
んん。…脚だってもうパンパン…。マッサージしなきゃ…太くなる一方…。パンプスだって、よいっ…しょ。中々…抜けやしない。…も゙う。
ブー、…。ん…メールかな……。はいはい、……誰からでしょうね。急ぎのモノではないでしょうから…。ちょっと待ってくださいよ……部屋に行くまでは待ってよね。ワッ。ぐらついた体を支えようと壁に手をついた。思いの外、音がした。なんて虚しい壁ドン…はぁ。肥大した足から片足ずつパンプスを手で掴み引き抜き、置いた。

ドカッとソファーに腰を下ろした。ふぅぅ。何何…。鞄を探った。携帯…、あった。どうせ、お知らせメールか何かの類いなんでしょ…?…。あ、ほらほら、やっぱり。いつもの通販先からだわ。一度利用しただけなのに…何度も何度も…。特に見なくても…今は欲しいものは無い。消しちゃえ。
あ……不明なメール…、1件。え、……珍しいわね…。

【件名:お願いがあります】

ん?あら仕事?…違うわね、私の携帯にこんなのは来ないはず。え…じゃあ何これ…。…あ、…んー…きっと知らないアドレスからでしょ…。………誰なんだろう。………あっ!待って…、待って待って。これって…、もしかして安易に開けて見ちゃいけない類いの物かもしれない、多分そうだ。きっとそうよね。アドレス確認したくらいは大丈夫よね。でも…何でこんな物が私のところに…?今まで来たことなんてなかったのに…。んー、いつって事ではないのか。ある日突然来るのよね、こんなメールって。……んー、何か検索とかしたっけ…?
……。ん゛ー、これ…『お願いがあります』って、普通の感じを装うって、いかにもって感じね…騙されませんからね。えっ、どうしたの?て、うっかり見てしまいそうよね、この言葉。…危ない危ない。
私のような人間は疲れてボーッとしてるとうっかり見ちゃいけないところを見ちゃうよ…。私に限らず、みんな、見ちゃうものなのかな…好奇心とかで?上手く誘導にのってURLなんかポチっとしたら…大変だって。テレビの番組でもやってたな…身に覚えのないものは弄らないのがいいって言ってた。知ってる。無視するのがいいって。
ちょっと見たら、その後、迷惑メールが更に増えたり、まさに添付されてるファイルとか開いてしまったら、変なサイトに飛んだりだとか…。指示されるまま、タップしちゃったら…。結果、妙な請求がされたりって、聞いた事があるけど。まあ、びっくりするでしょうけど、それにまともにとり合う必要なんてないから。
私に来たメール…添付されてるファイルはないみたいだ。とにかく、不明なアドレスのメールは何もしない事が一番よね。こういうことに疎いんだから。
……『お願いがあります』って…、私のような年齢の者だと、こんなの見たら、何だか切実な感じがしてしまうものなのよね…。何か困ってるのかなって思うんだけど…。それが、手、って事か…。そうよね。
うっかりいい人になってる場合じゃない。取り敢えず放っておこう。


メールがあった事は気にはなったけど、来た事はすっかり忘れて過ごしていた。何故なら立て続けに来るということがなかったからだ。
だけど一週間後、気がついたら……来てたのよね…。しかも、

【件名:不審がらないで内容を読んで貰…】って。こんな感じで。
そんなね…不審がらないでって……そんな事言われたって…、これって、じゃあって見たら相手の思う壺なんでしょ?
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