夢幻の騎士と片翼の王女
運命の皮肉(side アドルフ)




(明日は雨でも降ってくれれば良いのに…)



陽の傾いた空には、雲ひとつない。
この分では明日は晴天に恵まれることだろう。
私の気持ちを知っているなら、せめて曇ってほしいものだ。



ジゼルとの婚礼は明日だ。
最後の仕上げに、城の中は大わらわだ。



(ただひとりをのぞいては……)



そう…我が義兄・リュシアンだ。
奴は、いつもと少しも変わらず、のんきに女を抱いている。
いくらなんでも婚礼の儀には参加するだろうが、祝う気持ちなどさらさらないのだろう。
私自身、祝ってほしくもないので、それは別に構わないのだが…



そういえば、今日はあいつの新しい玩具が来るとか聞いた。
なんでも、ゼリア家の当主が仕入れて来た特別な女で、リュシアンは褒美に新たな領土を与えたと聞いた。
まだどんな女かも見ないうちから、ずいぶんと気前の良いことだ。



陛下が何も言わないのを良いことに、あいつはしたい放題だ。
そんなあいつのことが羨ましい。
あいつは王子とはいえ、とても自由だ
囚人のように窮屈な我が身を呪いたくなってしまうほどに。



(今更、そんなことを考えたところで何かが変わるわけでもないのに…)



私は、もやもやした気持ちを抱えたまま、城の中に戻った。
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