ビルに願いを。


「社長。まだその話ですか。杏ちゃんに何をさせる気ですか」

「エンジニアじゃないのはわかってる。サポート業務は抜けなくてもいい。でも丈の隣でチームを組んでほしい。人と関わることを了解したのはこっちに来て初めてなんだよ。麻里さん、何か手を打つ時期だっていうのは賛成でしょ?」

「……あくまで業務上のサポートですよね。いかがわしい意味ではなく」

「は? 俺がスタッフにそんなことさせると思う?」

「でも先日の彼の態度では、杏ちゃんを女性として気に入ったと思えましたけど」

「えー? いや、そういう意味ではないはずだけど。大丈夫、保証する。セクハラはさせない。何かあったら俺に言って」

社長は麻里子さんに言いながらチラッと私を見て、少しおかしそうに笑った。おかしいのかな、私が警戒しすぎ?



私が口を挟めずにいるうちに、頼みの綱の麻里子さんも丸め込まれていくのが分かった。

顎に指を当ててうーんとしばし考えた後、私に向き直って微笑む。

「そうね、杏ちゃん。エンジニアをサポートするという意味で、席を隣に置くのはいいかもしれない。仕事内容もよくわかるだろうから、試しにやってみて?」

退路は断たれた。ここで断る勇気などないし、そうしたらクビ間違いなし。

「わかりました、がんばってみます」

笑ってそう答える以外の方法があったなら、誰か教えてください。

私を彼女に似てると言いながら、怖い顔でじっと見てくる天才エンジニアのチームメイト。

どんな仕事か想像もつかないよ。

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