ビルに願いを。
4.あなたの願いが叶いますように
久しぶりにガラス張りの社長室に呼ばれて行くと、社長と麻里子さんが並んで待っていた。

麻里子さんが私の隣でなく向こう側にいることが気になって、浮かれていた足取りが急に重くなる。

促されて1人、手前側の革張りのソファに座った。

丈のやる気が出てよかったなんて話じゃないのか。クビはないかなってちょっと気が緩んでる場合じゃなかった?




なんだろう、結果的には盛り上がったけれど事前にスタッフさんに連絡するべきだったとか、社長不在時に勝手にやるなとか?

後から思えば、丈がわざとあの日急いでイベントにしたのかもしれない。社長は連絡を受けて慌てて出張先から帰ってきたそうだ。




何を言われるかと身構えて、出していただいたコーヒーを取る手もこわばる。

「どうしたの、そんなに緊張して。お礼を言おうと思って呼んだだけだからね。君の活躍は期待以上だよ。杏ちゃんには、引き続きあいつのサポートをお願いしたい」

社長のねぎらいの言葉にホッとした。なんだ、別に怒られるわけじゃないのか。

「クビはないと思っていいんですね」

「ないない。あれは冗談だよ。スタッフ採用だからね、もともと」

そうなんですか。冗談……よかったです。

「これでスタッフに戻るっていうことでもないんですか?」

社長は「そうだね」とにこやかに笑っているだけなので、麻里子さんにも助け船を求めたくて顔を見る。引き続きって言っても、この先何をすればいいのやら。

< 47 / 111 >

この作品をシェア

pagetop