ビルに願いを。
5.過去も未来も消えますように
遠足イベント後、暫定的に新しいチーム編成ができた。本来の仕事の追加として、社内遠足アプリを一般向けサービスに作り変えるためだ。

丈が本当に社長に何か言ったからなのか、私の処遇はそのままだった。私も呼び出されるまでおとなしく過ごしている。

2人だけで使っていたブースでは足りなくなり、半円ブースが2つ向かい合った場所に移動して5人の座席を作る。

明らかに足手まといの私だけれど、動作テストや小さい仕事を担当させてもらい助けられながらなんとかやっている。



丈の帰国まではこのまま置いておく。もしかすると社長もそういう判断なのかもしれない。

それならそれで、こんな恵まれた環境にいるうちに少しでも仕事を覚えておきたい。エンジニアの転職には学歴は問われることが少ないようだし、私はたぶん、この仕事が好きだから。

わからないことは、なるべく丈より他の人に聞くようにした。

チームの人にもやる気を認められたかった。というのはもちろん建前で、丈とどう話していいのかわからなくなってきたから。

遠足イベントの準備で歩き回るのも終わったし、丈と密に話す時間もぐっと減っている。



だってきっと軽い気の迷いなんだよ。すごく一緒にいる時間があったから、お互いの寂しさが埋まっただけ。




でも相変わらず隣にいるので、以前のように視線を感じることがある。まだあまり話してくれなかった時みたいに。

私を見てる? ケイティとはうまくいってないの? でも私の話を聞いたら軽蔑するでしょ?


そんなことを聞く勇気があるはずはないのに、質問がぐるぐると頭を占める。

麻里子さんに注意されたことをちゃんと思い出せ。

住む世界が違う。

年収何千万とかで、無意味に高級な暮らしをしていて、アメリカに帰りたがっている人。

勢いで恋に溺れた瞬間に、私はきっとまた何もかも壊してしまう。

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