豹変カレシのあまあまな暴走が止まりませんっ！

一．隣の偏屈王子様

これ以上に美しい後ろ姿を、私は未だかつて見たことがない。

艶やかな漆黒の髪。
白く長い首筋。
華奢なくせにしっかりと広い肩幅は逆三角形の黄金比。
ウエストはシュッと引き締まった直線を描いていて、形の良いお尻と繋がっている。
長く伸びた手足は、完全にモデルさんの域だ。

黒い細身のカットソーとスキニーパンツが、スタイルの良さを際立たせている。


この後ろ姿を見ているのが、私は好きだ。
なのに。


「比奈、何をトロトロ歩いている。行くぞ」

あーあ。振り返っちゃった。


誤解しないで欲しいのは、決して顔が悪いというわけではない。

むしろ、整い過ぎたそれは、女性かと見間違うほどに美しい。

長い前髪を右に流してアシンメトリーなヘアスタイルはどことなくアーティスティック。
覆い隠された髪から覗く、魅惑的な右目。
あらわになった、きりりとした左目。

近寄り難いほどに恰好良い
誰もが振り返る、美麗系男子。



なのに。

「背筋を伸ばせみっともない。シャキッと歩けないのかお前は」

彼が振り返ったときには、必ず辛辣なお小言がついてくるから嫌だ。

ずっと後ろを向いててくれればいいのに。