イケメン御曹司のとろける愛情
第十章 Happy Spell発動
「おかげさまでポートスクエアは開業一周年を迎えることができました。本日の一周年記念イベントをぜひお楽しみください!」

 司会の男性の合図に合わせて、私は大きく息を吸い込み、『フライ・ハイ』を弾き始めた。今日はコンタクトレンズを入れているので、しっかり客席が見える。鍵盤を見ながら、ときには会場に視線を送りながら曲を奏でる。イベント会場にはベンチに座っている人もいれば、座りきれずに横や後ろに立っている人もいた。

 一周年記念ということで、ポートスクエアの事務局に依頼されたのは、明るい曲を演奏すること。だから、『フライ・ハイ』に続いてノリのいい曲を五曲演奏した。それで私の持ち時間は終わりだ。

「ジャズピアニストの奏美さんによる演奏でした!」

 司会者の声に続いて拍手が起こった。お辞儀をして会場を見回す。スマホを掲げて私の写真を撮っている人もいる。動画を撮影していた人もいたようで、再生して眺めている人もいる。

 去年もこんなだったっけ……。そう思ったとき、ふと一人の男性の姿を思い出した。
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