イケメン御曹司のとろける愛情
第三章 雲上Masquerade
 本日一回目となるファーストステージのライブは、八時ちょうどに始まった。開演前、ジャズピアニストが急病で変更になったことを三好さんが伝えてくれたが、昨日のうちにウェブサイトや店頭で掲示をしてくれたおかげか、特に不満や文句の声は上がらなかった。

 まあ、樋波さんじゃなければミュージック・チャージを払いたくないって人は、すでにバーの前で回れ右したのかもしれないけれど。

 お客さまが座るのはくつろげるソファ。控えめで雰囲気ある照明と、リラックスムードの客席のおかげか、鍵盤に向かったときにはほどよい緊張感に包まれていた。

 一曲目に選んだのは樋波さんが演奏するはずだった曲。CMでもよく使われるダンサブルな楽しい曲で、お客さまの心をつかむのにぴったりだ。

 二曲目には少し落ち着いた曲を。事前に聞いていた通り、お客さまにはカップルが多いので、三曲目からは恋の曲を続けて三曲。

 ジャズの名曲『エンチャンテッド』は、日本語では『魅せられて』と訳されている。初めてあなたに会ってから、ずっとあなたの虜。そんな胸のときめきを表すように、明るく軽やかに楽しく十指を動かす。
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