【短編】ずるいよ、律くん
温かいよ、律くん
それからしばらく進んで、途中すれ違う恋人たちのしっかり結ばれた手が目に映っては、切なくなった。

だけど少し上げた視線の先では、グレーのマフラーをぐちゃぐちゃに巻いた女の子がやけに大泣きしていて。私は、思わず立ち止まってその様子を観察する。


…女の子は高校生ぐらいだろうか。彼氏さんらしき人は、大学生かな。2~3歳ほど上に見える。


「だってそうちゃん、あの女の人と抱き合ってたっ…」

「だからあれは不可抗力で…、ごめん。俺はゆずが好きだし、他の人のことは何とも思ってないから」

「…うそ」

「ほんと。だから泣くなって、な?」


"そうちゃん"という男の子は、困った顔を浮かべながら"ゆず"さんの頭をぽんと撫でて、そうして乱れたマフラーを巻きなおしてあげている。

あのマフラーはもしかしたら、"そうちゃん"の物なのかもしれないと、なんとなく思った。


「…懐かしい」


私の進行方向とは逆へ向かって進んでいく二人の背中を見送る。途中、ぽつりと零れた言葉を境に、律くんの表情や言葉が、どんどん溢れ出てきた。

…律くんも、一度だけ、困り顔を浮かべたことがあった。彼に告白して、付き合おうって言ってもらった私が大号泣した時。

あのときの彼も、さっきの彼氏さんみたいに、困った顔をして。『…泣かないでよ』って、わしゃわしゃと私の頭を撫でてくれた。

ひどく不慣れな手つきで、だけどそれがたまらなく温かかくて。

……ああ、なんだかやけに、律くんが恋しい。
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