課長の瞳で凍死します ~伊勢編~
「課長」

 いきなり振り向いた真湖に話しかけられ、ビクリとしてしまう。

 だが、顔に出ない体質なのが幸いした。

 真湖はなにも気づいてはいないようだった。

「車内販売来ましたよ。
 なにか食べます?」

「俺はいい。
 お前いるなら、買え」

 緊張を押し隠すように言った口調が、突き放しているように聞こえなかっただろうかと心配したのだが、真湖は、

「はーい」
と言って、販売員の女性を呼び止め、さきイカを買っていた。

 ……オッサンか。

「しまかぜでお昼にするんだろ?」

 程々にしとけよ、と言うと、はーい、と可愛く言ってくる。

 その顔に気を取られ、
「楽しみですねー、カフェ席。
 私、海の幸ピラフにしようかな。

 うな重もいいし。

 あっ、スイーツセットも食べたいですね」
と言う真湖の言葉がなにも耳に入っては来なかった。

 ……どんだけ食うんだ、と頭の隅では思っていたが。





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