ドストライクの男
03)スイートルームの住人

B.C. square TOKYOの42Fから51Fは、ラグジュアリーなホテルと評判の『グランドステイKOGO』が入っている。

このホテルは、世界を掌握するKOGOグループが展開するホテルだ。

51Fはエグゼクティブフロアとなっており、セミスイートルーム三部屋、スイートルーム二部屋のみとなっている。

話題に上った黒羽光一郎は、そのスイートルームの一部屋に長期滞在……イヤ、住んでいると言った方がいいのかもしれない。そこで引き篭もりのような生活を、もう二か月も続けていた。

小鳥が黒羽光一郎と出会ったのは偶然……というより小鳥のミスでだ。

一か月半前、小鳥は光一郎の部屋に掃除に入った。
誰もいないと思い、仕事を始めようとしたとき、「君は何をしているのかな」と突然声を掛けられたのだ。

こんな失態は初めてだった。小鳥は驚いた。
だが、もっと驚いたのは、振り向いた先にあった彼の姿に! だ。

何故なら、彼が身に付けていたのは、腰に巻いた真っ白なバスタオル一枚だけだったからだ。

普通なら、キャーッと悲鳴を上げ、顔を真っ赤にし、部屋を飛び出すのだろうが、やはり小鳥は小鳥だった。

不謹慎にも、雑巾片手に光一郎をガン見。そのうえ、彫刻のように一分の隙も無い美しい裸体を見つめ「綺麗」と感嘆の息を吐いたのだ。

光一郎もまた、裸を見られていることに、全く動じることはなかった。

濡れ髪をタオルで拭きながら、クスリと笑うと、突然、悪戯でも仕掛けるように小鳥に近付いた。そして、ジリジリと彼女を壁に追い込み、巷で云うところの壁ドンで小鳥を囲い込むと、その耳元に唇を寄せ囁いた。

「可愛いメガネザルちゃん、それはありがとう。でも、このままでは僕は君を襲うかもしれないよ」

甘いテノールの声と彼の息に、小鳥はゾクッと身を震わした。

その反応に満足したのか、光一郎は耳元から顔を離すと、今度は彼女の瞳を覗き込み、婦女子ならポッと頬を染めるであろう魅惑的な眼差しでジッと見つめた。

だが、見上げる小鳥も、体勢を立て直し、その瞳に惑うことなく光一郎を見つめ返すと、この場に相応しくないことを思った。

私が百六十一センチ、見上げる目線はパパより二センチほど上、ということは百八十八センチ、高いなぁ……と。

光一郎は無表情に見つめ続ける小鳥に呆れるが、意外にもその口から紡ぎ出された言葉は、蕩けるような、甘味な台詞だった。

「綺麗だ。眼鏡奥の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。キスしたい」

片手を小鳥の腰に回し、もう片方の手で後頭部を押え、さらに被さるように小鳥の顔に顔を近付ける。

だが、小鳥は動じる様子もなく、大きな瞳は光一郎を見つめ続けていた。
光一郎はフッと口角を上げ、唇同士が触れそうな距離で囁いた。

「君は恐いもの知らず? それともおバカさん?」

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