癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
癒しの田中さんの事情~side Satoshi
親父が社長を務めるB.C.Building Inc.が入っているビル・B.C. square
Tokyo。

俺は今、同じビルの27F-28FにあるBCコンピュータの社長をしている。
名前は田中 悟(たなか さとし)。
ただ、事情があり、仕事上は母の旧姓である松浦(まつうら)を名乗っている。
B.C.Building Inc.は、世界各国にビルを所有する不動産会社で業界最大手だ。
俺には8つ上の兄がいて、兄が父の跡を継ぐべくB.C.Building Inc.の副社長をしている。

最初は、俺も親父に言われるがまま、
大学を卒業後、B.C.Building Inc.に入社した。
B.C.Building Inc.では当然のごとく、社長の息子という目で見られた。
兄に長男も誕生し、自分の居場所に疑問を感じた。
何不自由なく生活させてくれた親父には感謝しているが、
一から自分を試してみたい。その思いから起業を決意した。
そして、母の旧姓を名乗り、起業したのは今から5年前、
俺が30歳のときのことだ。

当時、俺には結婚を考えていた女性がいた。
彼女とのことは今になっては苦い思い出だ。
俺が女性不信になったのは彼女が原因だといっても過言ではない。

彼女とは28歳のとき合コンで知り合った。
付き合いだした当初は純粋に俺のことを好きになってくれていたんだと思う。
しかし、俺がB.C.Building Inc.の社長の息子と知ると、
俺をブランド品のバッグと同じように思っていたようだ。
俺の見た目だったり、肩書だったり、
そういったものを自分の所有物のように扱う。

決定的だったのが、俺が悩んで起業を考えたときだ。
一から自分を試すと言った告げたときの
彼女の冷たい目は今でも忘れられない。応援する気は全くなく、

「B.C.Building Inc.に関係ない悟なんて興味ないわ。」

と言った。

結婚まで考えていた女にこんな態度をとられたことのショックは
自分が思っていた以上に大きかった。

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