癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
いろいろと気になること
私が体調を崩して、
みなさんに迷惑をおかけした翌々日から、
ここしばらくは田中さんの姿を見ていない。
あれだけ毎日のようにいらしていたのに…。
ただ、カフェの仕事はシフト制なので、
私のバイトの時間帯にはいらしていないだけなのかもしれない。

涼太さんに聞いてみた。

「涼太さん、管理室の田中さん、私、
最近お見掛けしないんですけど、
私のバイトの時間以外にお見えになっていますか?」

「そういえば、最近、俺もみていないなぁ。
体調でも崩されたのかな?
井口先生にでも聞いてみればいいんじゃない?
常連さん同士、お話しされていたこともあるし、
具合が悪いなら、井口先生に診てもらっているかもしれないし。」

「確かに。そうですね。
私、田中さんの笑顔に癒されていたんですよね。
だから、お会いできないのが寂しくて…」

「そうだね。
なんといっても『癒しの田中さん』だもんな。
あっ、噂をすれば影だね。井口先生がいらしたよ。」

「いらっしゃいませ。おはようございます。」

「まみちゃん、おはよう。いつものね。」

「はい。かしこまりました。」

井口先生の言う「いつもの」は
シアトルアップルブレンドのMサイズ。田中さんと同じ。
でも、井口先生の場合はイートインでもテイクアウトでも
紙カップに入れること。
全部飲み切らないうちに、診察のためにさやかさんから
「早く戻ってきて」命令が来ることがあるからだ。

「お待たせいたしました。
では、こちら、気をつけてお持ちください。
ごゆっくりどうぞ。」

そういって井口先生にコーヒーを渡した。
カフェのお客様も少なかったので、
やっぱり、井口先生に田中さんのことを聞いてみようと思った、
周囲のテーブルを拭くふりをして、井口先生に近づいた。
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