癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
焦り~Side Satoshi
井口の策略のお蔭で、
まみちゃんと二人きりで食事をする機会を得た。

ドレスアップしたいつもと違う雰囲気の彼女を
思わず抱きしめたくなった。

しかし、ここは我慢。大人の男を装い、エスコートした。

彼女から『やわらかい、やさしい顔』といわれ、
今の自分はどんな顔をしているのか気になった。

5年前から仕事で認められることを目標に
がむしゃらにやってきた俺は
いつしか表情が乏しくなっていったのかもしれない。

そんな俺に表情を与えてくれたのは他の誰でもない、まみちゃん、君だ。
彼女から管理スタッフとしての田中のことを聞かれた。
このことを聞かれるかもしれないと
事前に井口から情報が入っていいたから、
当たり障りのない程度に正直なところを答えておいた。

彼女から

「(管理の田中さんが)ご病気でなければいいのですが…」

という優しい言葉をもらい、
ますます彼女を自分のものにしたいと思った。

ただ、恋愛から遠ざかっていた俺は、一方では慎重になっていた。
本当は彼女のことが好きでたまらないのに

『まみちゃん、俺は管理の田中さんになって、君を見つけた。
カフェで、笑顔で応対している姿や
外国人観光客に親切に情報を伝えている姿。
井口のところでボランティアで通訳をしている姿。
そして、偶然ではあったけど、白石真美奈としての仕事。
正直、君に対する感情が恋なのかどうなのかもわからない。
でも、松浦として仕事をしているとき、
管理スタッフの田中に対するときのように
接することができたらと思う。』

という言い方しかできなかった。

そして、松浦としているときも
「まみちゃん」と呼ぶことを許してもらった。
本音をいうなら、真美奈と呼びたい。
「まみちゃん」という呼び名はみんなが使っている。

先日、カフェの健というアルバイトが彼女を
「まみさん」と呼んでいた。
以前、健くんは大学生だと聞いたことがある。
彼は真美奈よりも年下だから、
「ちゃん」ではなく「さん」で呼んだのだと思う。
そうだと頭でわかっていても、その特別感に嫉妬した。
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