ビルの恋
Bar54
数日後、お昼休みの管理室。

「で? 小学校の同級生とのランチはどうなったの?」

紀美子さんが、お茶を淹れながら尋ねる。

私たちは、管理室の奥にある和室の休憩室で、ちゃぶ台を挟んでランチ中だ。

「楽しかったですよ」

「どんなふうに?」

「どんなふうにって・・・短時間でしたし、ちょっと世間話をしたくらいですけど」

「次の約束は?」

紀美子さんは興味津々だ。

「Bar54に行きます」
照れくさくて、ぼそっと小声で答える。

「まあ!素敵じゃないの、夜のお出かけね」
自分のことのように喜んでくれる。

「いいわねー、そういう時期が一番楽しいのよね」

紀美子さんは海苔巻きを一つ、口に入れた。
今日のお弁当は海苔巻き3種類で、卵、梅紫蘇、胡瓜だ。
どれも美しく巻かれている。
紀美子さんの料理は、丁寧で色遣いのセンスがいい。

私はいつものように、おにぎり3個だ。
具は、たらこ、沢庵チーズ、紫蘇昆布。

「何を着ていくの?」
紀美子さんの質問は続く。

「何って・・・まだ考えてないですけど。
仕事帰りだから、今日みたいな恰好かな」

白地に細いブルーのストライプのシャツに、ネイビーのフレアスカートだ。

「奈央ちゃん・・・それはちょっと地味よ・・・」
紀美子さんの表情が曇る。

「せっかく夜だし、雰囲気のいいお店だし、ドレッシーに装わないと」

「でも仕事帰りですし・・・おしゃれしすぎるのは、恥ずかしくて・・・」

「奈央ちゃん。
素敵なお店には、それなりの格好で行ってこそ、お店から大事に扱ってもらえるのよ。
おしゃれしてない方が恥ずかしいのよ」

紀美子さんがたしなめるような口調で言う。

「それに、着替えについては大丈夫。
ここに寄って着替えればいいじゃない?」
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