「千奈美がさー、妊娠したんだってー」



 屋上から海が見える私立北波女子高等学校。
 そんな屋上でお弁当を広げるのは気持がよかったけど、夏の日差しは地獄だ。
 だから期末試験が終わったばかりの七月上旬の今日は、屋上じゃなくってそこに続く階段でお昼ごはんを食べていた。

 階段に腰掛けて膝の上でお弁当を広げて、隣では先に昼食を済ませた仲良しの啓子が手鏡を覗き込んでいる。

 同じように仲良しで、いつもお昼を一緒に食べていた千奈美は保健室だ。

 教室のさざめきが遠く感じるその場所で、私は啓子から千奈美の告白を聞かされる。


「へっ?」


 あまりにも突然の告白に、私は間の抜けた声をあげてしまった。


「千奈美、が?」

「アタシじゃないよぉ、千奈美がー。さすがのアタシも、同じヘマは二度もしないよ~」


 いつも通りのびた語尾でしゃべる啓子の軽い口調は、千奈美が妊娠したという衝撃発言をどこか嘘っぽく響かせる。
 けど、啓子はこんな冗談を言ったりするようなタイプじゃないのは知っていた。

 啓子は私の方を見もしないで、鏡の中の自分ばかりを気にしている。


「あ、落ちるよー」

「へっ? あ……!」


 なのに、私の箸から転げ落ちそうになっていたミートボールは見えるみたい。
 啓子に指摘されて、私は慌ててパクッと口にする。


「相手って、禄英高校の……?」


 ミートボールをほとんど噛まずに飲み込んで、同時に口を開く。


「聞いてないけど、やっぱ彼氏でしょ~」


 私はなんと答えたらいいのかいいのかわからない。
 ただただ、お弁当を食べ箸が進む。

 女子校という響きにお嬢様学校みたいなイメージを抱いていたけど、実際は全然そうじゃなかった。
 本当にそういう女子校もあるのかもしれないけど、少なくともこの学校は違った。

 男目がないから、みんな年頃の女の子らしい恥じらいをどこかへ吹き飛ばしてしまったらしい。
 ちなみに、男の先生は男目にカウントされていない。


『先生~、血ぃ出そうだから、トイレ行かして!』


 授業中に生理用品片手に叫んだ子までいる。
 数学のおじいちゃん先生は、ビックリして目をまんまるくしていたっけ。

 女の子だけのあっぴろげな会話に、お嬢様なんて言葉が似合うはずがない。

 最初は男っ気のない高校生活にガッカリもしたけど、気を置かずに済む女子校生活は気楽で楽しかった。

 ちょっぴりエッチな話とか、みんなで回し読みするティーンズラブの雑誌。
 みんなで笑いながらそれを楽しんでいるのに、千奈美は恥ずかしそうに俯いて、言葉少なく相槌を打つ。

 私より内気で純情な千奈美。
 そんな千奈美が妊娠?
 想像出来ない。