3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~

「やっぱり知り合いに会うのは避けた方がいいよ。会えば絶対に動揺しちゃうしさ、不審に思われたら嫌じゃん」

「確かにそれもあるけどー、いつもの先生の方が安心だよ~。緊張すると内診って痛いんだからさーただでさえドキドキなのに〜」


 啓子と俊輔くんが仲良く産婦人科談義をしている。
 男の人の口からそういう話が出るのって、すっごく変な感じ。

 俊輔くんも産婦人科に行ったことがあるのかな。
 啓子の付き添いで、手術にも付き添ったりしてたのかな。

 どんな気持ちで、中絶手術を受けに行く啓子を見送ったんだろう。

 産婦人科に行ったことのない私は、話に加わることが出来ない。
 ただぼんやりとその光景を眺めていた。
 そこへ、話の主役の千奈美がおずおずと切り出す。


「あ、あのね……わたし、生理痛とかもほとんどないから、病院行ったことなくて……お母さんも、いつもどこで検診受けてるか知らないし、だから」


 途切れ途切れにしゃべって、最後は言葉が続かなくて黙ってしまう。
 それでも、言いたいことが伝わった。


「なんだー、そっか~」

「じゃあ、どこの病院に行っても大丈夫だね」

「いい病院探さないとね~」

「うん……ありがとう」


 千奈美が嬉しそうに微笑んで、頷いた。
 その笑顔を、私はどこか遠くから眺めている。

 千奈美には、啓子と俊輔くんがいれば大丈夫なのかもしれない。
 私も千奈美の妊娠を聞いたど、啓子みたいに本人から聞いたわけじゃないし、二人みたいにいろいろアドバイスできるような知識もない。

 啓子のぬいぐるみコレクションみたく、ただここに居て眺めているだけ。

 彼氏もいないし、恋もろくにしたことがない。
 ファーストキスもまだで、もちろんセックスも妊娠の経験もない。
 だから出産も中絶もなにも知らない。

 経験値がほとほと足りなかった。

 生理痛は毎回あるけれど、それで産婦人科へ行こうという発想もなかった。
 だから病院選びのアドバイスも出てこなくて、むしろ私が聞きたいぐらい。

 十五歳で妊娠して、中絶した啓子と俊輔くん。

 十七歳で妊娠して、産むかもわからない千奈美と夏樹くん。

 私はなにもない。
 私には誰もいない。
 私のなかは空っぽだった。

 悪いことじゃない。
 望まない妊娠なんて、しない方がいいんだ。
 そうわかってはいる。

 心から誰かを愛したいと思う。
 心から誰かに愛されたいと思う。
 その気持ちは純粋なはずなのに、どうしてこうなってしまうんだろう。

 見えない柵に囚われて、汚れていく気がした。
< 17 / 63 >

この作品をシェア

pagetop