3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
 ずっと他人事だと思っていた虐待の話だけど、最近の私にとってこういう事件は他人事じゃなくなった。

 千奈美とかお姉ちゃんとか、まだお腹のなかにいるまだ見ぬ赤ちゃん。
 子どもたちのことを思う。

 あまりにも未知だった。


「ん~……そうねぇ。やっぱり、こういうニュース見ると自分は大丈夫なのかなって、不安になるよね。マタニティブルーなのかなぁ」


 お姉ちゃんは、大きなお腹を抱えてソファーにもたれかかる。


「客観的に見ればしつけと虐待は違うってわかるけど、当人は本気でしつけって思い込んでるのかもしれないし、ノイローゼとか追いつめられたら私もどうなるかわからないと思う」


 ゆったりとしたワンピースの上からありありと分かるまあるいお腹。


「産後ケアサービスも登録してるけど予約取りにくいって聞くし、旦那もいろいろ勉強してくれてるけど仕事もあるし……どこまで頼っていいのか……まあ、お金も稼いでもらわないと困るんだけどね!」


 お姉ちゃんはずっと販売の仕事をしていたけど、今は産休中。
 お義兄さんは、育休を取るのが難しいらしい。

「もう既にいろいろお金飛んでるからね~。出産一時金は分娩費用で全部消えるのに、ベビー用品あれこれいっぱい揃えなきゃいけないのよ。赤ちゃんのこと考えると品質に妥協したくないし、可愛いアレコレについつい財布の紐が緩みそうに〜」


 力説しながら笑うお姉ちゃんを、私は不思議な気持ちで見ていた。

 お姉ちゃんは私のお姉ちゃん。
 例え結婚しても子どもが生まれてもそれは生涯変わらない。

 なんだけど、今私の前にいるのは一人の妻で一人の母で、私のお姉ちゃんじゃないみたいだった。


「子ども一人生むと、三千万の借金負うようなもんだって恐ろしい例えもあるし」


 三千万円なんて、宝くじに当たる夢みたいな大金だ。
 私もお姉ちゃんも、それだけのお金をかけて育ててもらったんだ。

 そういえば、高校の学費とかいくらなのか知らない。

 三千万円なんて、自己破産してもおかしくないぐらいの金額だよね。
 しかも、その借金は泣いたり怒ったりもするんだから。

 私も親とケンカしたときは、結構酷いことを言ってる気がする。


「プライスレスの喜びがその分いっぱいあるんだろうなぁとは思うけど」


 その言葉で、沈みかけていた気持ちがふわりと浮いた気がした。

 小学校の頃は母の日や父の日に毎回ちょっとした贈り物をしていた。
 学校の授業の一環で作った工作とか手紙とか。
 それを未だに持っていてくれていることを、私は知っている。
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