「千奈美……どうするんだろう」


 学校からの帰り道。
 啓子と駅に向かって歩きながら私は空を見上げて、またポツリとつぶやく。


「朋絵、そればっかだねー。アタシたちが悩んでたって仕方ないよ。最後に決めるのは、千奈美なんだから」


 私の視線の先には、ギンギン輝く真夏の太陽。

 とってもいい洗濯日和。
 道路の脇にそびえ立つマンションのベランダには、いろんな洗濯物が干されている。

 いろんなサイズのTシャツに、長さもまちまちな靴下。
 お布団を干している家もあって、その傍らには大きな枕と小さな枕も干されている。
 このマンションは子育て世代が多いみたい。

 ああ、子どもがいるのね。
 そう思わせる物ばかり。


「啓子もそればっかり。冷たい」

「ホントのことじゃーん」


 いつもなら三人一緒に歩く帰り道が、今日は啓子と二人っきり。

 昼休みが終わって教室に戻ると、クラスメイトから千奈美が早退したことを聞かされてしまった。

 昼休みに啓子から千奈美の妊娠を告白されてから、私はまだ千奈美の顔を見ていないよ。

 午前中はいつもと変わらない様子だったけど、今はどうなんだろう。

 午前中も、無理してたのかな。
 いつも通りに見えたのも演技だったのかも。


「千奈美~……」


 そう思うと涙が出てきちゃう。


「も~、朋絵が泣いてどうすんのよ!」


 情けないなあ、と笑われて背中を叩かれたその時、旗鼓憶えのある声が私たちを呼んだ。


「朋絵? 啓子?」


 千奈美の声だった。


「あれぇ、千奈美だー」

「千奈美ぃ!」


 マンションの隣にある公園。
 その木陰のベンチに、千奈美が座っていた。
 私は千奈美の姿を見たとたん、何を考えるよりも早く駆け出していた。

 千奈美の目の前で急ブレーキをかけると、千奈美がきょとんとした目で私を見てくる。
 ふっくりした頬が女の子らしい丸いラインを描いていて、とっても可愛い千奈美。
 そんな千奈美が心配で思わず抱きつきたくなるけど、我慢。

 そんなことあるのか知らないけど、きゅっと抱きしめたら赤ちゃんが潰れちゃうんじゃないかと思って、踏み込めない。

 その代わりに、きゅっと千奈美の手を握った。


「千奈美ー、帰ったんじゃなかったの~?」


 ゆっくりと歩いてきた啓子が、早退したはずの千奈美に首を傾げる。

 そういえばそうね。
 なんでこんなところにいるんだろう?


「あ、うん……なんか、教室にも家にも帰る気になれなくて…………」

「体は大丈夫なの?」

「うん、もう大丈夫」

「よかった」


 体調は大丈夫という言葉にホッとしたけど、教室にも家にも帰りたくないと言った言葉が心配だった。