「やっぱり、妊娠してたって」

『そっか~……病院で診てもらったんなら、確実だねぇ』


 千奈美と産婦人科へ行った夜、私は部屋で啓子と電話をしていた。

 千奈美の妊娠を啓子にも伝えるべきか悩んでいたら、啓子の方から電話がかかってきた。
 あれからずっと気まずいままで、啓子は私といるときも千奈美の話をしなかった。
 そんな啓子が、千奈美のことを心配して私に連絡してきた。

 もう夏休みに入ってしまった。
 だから、千奈美を病院に連れて行ってあげて欲しい。

 お互いの存在を無視してるみたいな状況になっていても、啓子は千奈美を心配している。
 千奈美もちゃんと啓子の言いつけを守って、自分から病院に行くって言った。

 だから大丈夫。
 きっと私たちは前みたいな仲良し三人に戻れる。
 ちょっと罪悪感はあったけど、そう思ったからこそ私は啓子に千奈美が病院に行ったことを告げた。


『千奈美、どうするか言ってた~?』

「ううん、はっきりとは何も」


 産みたいとも、産めないとも言ってた。
 まったく正反対の気持ちがせめぎあって、答えはまだ出ていない。

 赤ちゃんを可愛いと言った千奈美。
 育てられないと言った千奈美。

 児童虐待のニュースが脳裏を過ぎる。
 人は誰だって、罪を犯す可能性がある。

 生まれてくる前に死なせるのと、生まれてきてから死なせるの。
 どっちがより残酷なんだろう。

 高校生が子どもを産み育てるなんて。
 子どもが子どもを産み育てるなんて。
 そんなの無理だと世間は言う。

 でも、命は大切だとも言う。
 正論はどこにあるんだろう。

 正論は産むのと堕ろすのと、どっちなんだろう。
 どっちが正解なんだろう。

 私はなにも言えない。
 命は大切だから産めとも、育てられないから堕ろせとも。

 私は千奈美の友達だけど、赤ちゃんにとっては他人も同然だ。
 赤ちゃんを死なせる重みも、人ひとり産み育てる重みも、私はどうせ背負わない。
 だからこそ、私はなんでも好き勝手に言える。
 なんでも言えるからこそ、何も言っちゃいけない。

 訳知り顔で軽々しく口を出せば、それは夏樹の野郎よりももっと無責任だ。

 私はただ、千奈美の友達であることを貫きたい。


『…………朋絵―、嫌な話していい~?』

「んー、なに~?」


 携帯電話の向こうから響く啓子声。
 そのの間延びした口調につられて、私まで語尾を伸ばしてしまう。
 嫌な話って、なんだろう。

 ドキリとするような言葉なのに、普段どおりの声が緊張感を奪う。



『アタシ、千奈美の赤ちゃんに死んで欲しいと思ってる』



 だけど、続いた言葉はあまりにも緊迫していた。

 おどけた調子なんてまったくなくて、背筋がゾクリとする。


『だって、だって……そんなの堪えられない!!』


 絞り出すように震える声が、耳元で叫ばれる。
 ここ数週間で何度も耳にした、啓子の悲痛な叫び声。

 啓子の声と同じように、心臓が耳元で鳴っているみたい。
 うるさい鼓動に、胸の奥が痛くなった。