「あれ、俊輔くんも?」


 千奈美が流産した数日後。
 私と啓子は千奈美から会いたいと連絡を受けて、再び待ち合わせをして千奈美の家に行くことにしていた。

 けれど、あの日と違って待ち合わせ場所に来たのは啓子だけじゃなかった。
 啓子の隣に俊輔くんがいることに、私は首を傾げる。


「おれは啓ちゃんを送りに来ただけだから。千奈美ちゃんの家に着く前に、帰るよ」

「そうそう~、いないものと思ってねー」


 啓子の言葉に俊輔くんがそこまで言ってないと突っ込んで、思わず笑ってしまう。

 俊輔くんは、啓子が心配で一緒に来たんだろうな。
 もしかしたら、帰りも迎えに来るのかもしれない。

 中絶と流産。
 似ているようでまったくの真逆。
 それでも、啓子はいろいろ気持ちが揺れ動いたりもすると思う。

 啓子を真ん中に、三人で千奈美の家に向かって歩き始める。


「あれ~、あれって夏樹じゃないー?」


 駅から歩き初めて十分ぐらいしたころ、啓子が公園の前で立ち止まった。

 公園の中で、誰かがたそがれている。


「本当だ……」


 私はその人影を見て、目を丸くした。

 人気のない寂れた公園のブランコに腰掛けて、膝の上で指を組んで俯いている。
 顔は見えないけど、あのシルエットは夏樹で間違いない。


「夏樹くんて……千奈美ちゃんの彼氏っていう?」

「そうそう~。その夏樹―」


 夏樹も、千奈美のお見舞いに来たんだろうか。
 でも、それならどうしてこんな所に……
 行く勇気が出ずにいるのか、それとも名残惜しくて帰れないでいるのか。

 千奈美が流産して、夏樹は今どんな気持ちでいるんだろう。

 ガッカリした?
 ホッとした?
 悲しい?
 それとも、喜んでる?


「…………啓ちゃん。おれ、ここまでいい?」


 俊輔くんはじっと夏樹の方をみたまま、啓子にそう言った。
 その横顔は、真剣だった。


「もちろんいいよー、ありがとね~」

「うん、バイバイ。気をつけて行ってきてね。朋絵ちゃんも」


 視線を私たちに戻した俊輔くんが、ひらりと手を振る。


「バイバイ~」


 啓子が手を振り返して、私は会釈する。
 私たちが背を向けようとすると、俊輔くんは公園を仕切る低い柵を飛び越えて行った。
 真っ直ぐに、夏樹に向かって走っていく。


「行こっか~」

「うん……」


 私は俊輔くんと夏樹が気になりつつも、啓子に促されて歩き出す。

 俊輔くんは夏樹と面識がないはずだけど、どうするつもりなんだろう。
 もしかして、実は知り合い?
 そんなまさか。

 啓子は俊輔くんがどうするつもりなのか、分かっているのかな?
 私みたいに二人を気にする素振りを見せずに、千奈美の家へ向かう。


「啓子、待ってよ!」


 私は啓子に置いて行かれそうになって、慌てて追いかけた。