3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
 前に妊娠と中絶を経験している啓子。
 その啓子に自分の妊娠を打ち明けるより、彼氏さえいないような私に打ち明ける方がきっとずっと難しいと思う。

 疎外感も嘘じゃないけど、例え啓子を介してでも打ち明けてくれたことは嬉しかった。

 妊娠してきっとすっごく悩んでるだろう千奈美に対して嬉しいだなんて、こんな気持ちになるのは不謹慎かな。
 でも、本当に嬉しかった。
 親友だって、本当に思ってくれてたんだと実感する。


「病院にはもう行ったの~?」


 千奈美の隣に座った啓子にならって、私も千奈美の隣に座る。
 私と啓子で千奈美をサンドイッチする。

 それにしても、『千奈美が自分から言い出すまで待とう』とか言っていた啓子とは思えない突っ込みっぷりだ。
 病院に行ったのかとか、結構な質問攻めだ。


「…………まだ、行って……ない」


 缶を強く握り締めて、千奈美の手が可哀相なぐらい手が白くなる。
 震えて血の気を失う手が切なくて、私はそっと千奈美の手に手を重ねた。

 さっきは熱いぐらいだった千奈美の手が、今は冷たくなってしまっていた。。


「じゃあ、検査薬だけー?」


 手を震えさせたまま、啓子の質問に千奈美はぎこちなく頷く。


「夏樹くんや親には言ったのー?」

「…………」


 今度は、動かなかった。
 体を硬くして、身動きを取らない。
 手の震えさえ硬直していた。

 私も啓子も黙って返事を待つけど、返事がないことが返事だった。

 まだ、私と啓子にしか打ち明けていない。

 私はなにも言えなかった。
 啓子は何か考え込んでいるようで、珍しく眉間に力が入っていた。

 私たちは、どれだけそうしていただろう。


「帰る……!」


 沈黙に耐えかねた千奈美が、そう一言つぶやくと突然立ち上がった。

 私の手も弾かれて、千奈美はそのまま私たちを振り返ることなく駆けて行った。

 そんなに走って、転んだりしたら大変!
 そう思ったけど、私は何も言えず何も出来ずに千奈美を見送ってしまった。

 見る間に千奈美の姿が小さくなって、曲がり角に消えてしまう。
 思わず伸ばしていたた手が、やり場のないまま膝に落ちる。


「まだ、アタシたちにしか言ってない感じだねー」

「うん……」


 確認するような啓子の言葉に頷いて、私は無力な手を握り締めた。


「千奈美……どうするんだろう」


 小さく溜め息をついて、啓子がさっきの私と同じことをつぶやく。

 ベンチに座る私と啓子の間には、千奈美が座っていた分のスペースが空いている。
 千奈美が退いたその場所を撫でると、ひんやりと冷たかった。
< 5 / 63 >

この作品をシェア

pagetop