夜界の王
第一章






生きていること。

それはアーシャにとって、苦痛なことでしかなかった。






国境はずれの深い森林部に位置する、小さな田舎の村落。

年に数回通りかかる旅人や商人を除けば、この村に人がくることはほとんどない。


人口はわずか二百人弱。村人たちは自給自足の生活と、互いに食料や物資を交換して暮らしを保っていた。



アーシャは、母のイライザと2人で、薬草を調合してつくった薬との交換で、食物や衣服の布などの物を得て生活していた。


父、ジョセフが亡くなってから持病の容態が深刻化していったイライザは、アーシャが16になるころにはベッドに寝たきりの状態だった。そのため薬はほぼアーシャひとりでつくるようになっていた。

薬だけでは病気は治らない。

少しでも栄養がある食べ物をたくさん得られるよう、夜遅くまで薬をつくり、種類を増やし、より良い葉野菜や穀物と交換させてもらえるよう懸命にイライザのために尽くした。


村には正規の医者がおらず、多少医療知識に明るい老齢の村人が仮の医者のような立場を請け負っていた。


その場凌ぎの医者では限界がある。だが都会の街まで行くには遠すぎて、歩いていくのは不可能だった。ここには馬もいないのだ。


寝る間を惜しみ、薬草をすり潰し、調合する毎日。


自分の食事も満足にできない苦しい生活だが、心は満たされていた。


母が自分に「ありがとう」と笑いかけてくれるだけで、アーシャはなんでも頑張れる気がした。


母の病が一日も早く治るように、神さまへの祈りと願いを込めた薬を、何日も、何ヶ月も作り続けた。


しかし、アーシャの懸命な働きが報われる日はとうとう来なかった。


アーシャが16歳の誕生日を迎えた朝、イライザは安らかな顔で神のみもとへ旅立った。



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