行雲流水 花に嵐
第四章
「そーうちゃん。宗ちゃんったら~」

 長屋で夜具にくるまっていた宗十郎は、先程から聞こえる腰高障子の向こうの声に薄目を開けた。
 長身の影が映っている。
 緩慢な動作で身体を起こし、宗十郎はのろのろと土間に降りた。

「……朝っぱらから何だよ」

 障子を開けると、そこにいた片桐が宗十郎の姿を見て、思い切り眉を顰めた。

「何なのその格好。そんなんだから、いつまで経っても独り者なのよ」

「お前に言われたくない。それより何の用だ」

 ぼりぼりと頭を掻きながら、宗十郎が言う。
 昨夜帰って来てそのまま夜具に潜り込んだので、袴もよれよれだ。

「ほんっと、あんたみたいな男は放っておくとろくなことにならないんだから」

 ぶつぶつ言いつつ、片桐は家に入るなり敷いてあった夜具を片付け始める。
 その間に、宗十郎は手拭い片手に顔を洗いに外に出た。

「ちょっと宗ちゃん。いい加減、髭ぐらい剃ったらどうなの」

 帰ってくると、家の中はこざっぱりと片付いている。
 この僅かな時間で大したもんだ、と思いつつ、宗十郎は己の顎を撫でた。

「昨夜はおすずの相手で疲れたんだ。竹次の探りを頼んでから頭が上がらねぇからよ、腰が痛ぇの何のって」

「いやらしいわね。あんたがそんな色事に嵌ってる間に、あたしゃ敵陣に乗り込んでたってのに」

 文句を言いつつも、ほら、と小さな包みを出す。
 開けてみると、竹の皮に包まれた握り飯が二つ。

「どうせ飯なんて焚いてないでしょ」

「ありがてぇ」
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