イケメンなんか大嫌い
安心な彼氏

俊弥が付いて来ていないことを確認してから、走るのを止め息を整えた。
アパートに近付くにつれ、足取りはとぼとぼと重くなる。
顔を俯けて足元を眺めていると、目尻に滲んだ涙を感じた。

自分の心がざわめいていることに、動揺している。

角を曲がるとアパートが現れる。
階段を登ると、見慣れた一番奥のドアの前に賢司くんが立っていて、驚いた。
わたしに気付くと、手を挙げて笑顔を向けてくれる。

「賢司くん、どうして……」
「明日まで待てなくて、来ちゃった」

嬉しそうな可愛い笑顔に、さっきまでのささくれだっていた心が少し癒される。
俊弥に送ってもらわなくて良かった……。鉢合わせる所だった。
あの男にだけは会わせたくない。

ほっと表情を緩めると、わたしの目元に指を伸ばした彼が、慌てふためいた。

「……えっ……未麻ちゃん、泣いてない!? そういえば電話の途中で何かあったの?」
「や……酔ってるから、泣き上戸かも、わたし」

話題をこれ以上展開させないよう気を配りながら、鍵を開け部屋の中へ招き入れる。
靴を脱ぎながら、賢司くんが身なりを気にしている様子を見せる。

< 15 / 209 >

この作品をシェア

pagetop