小倉ひとつ。
向こうを向いているから背中しか見えないけれど、あの後ろ姿は瀧川さんに違いない。


会えないかなあって考えてはいた。


でも、ほんとに会えるとは思わなかった……!


途端に上がり始めた体温と、気になってきた服装を手早く確認して、もっと可愛い服を着てくればよかったかな、なんてちょっぴり後悔。


もう今さらどうにもしようがないので、泣く泣く諦めて席を探す。


混みすぎて一人席は埋まっている。相席かな。


ええと……お願いできそうなのは、吾妻さんだろうか。


「こんにちは。吾妻さんすみません、お邪魔します。お向かいに失礼してもよろしいですか?」

「こんにちは、かおりちゃん。ごめんなさいね、連れが来る予定なのよ」


そっかあ。


ありがとうございます、すみません、と離れた。


ええと……どうしよう。

どうしよう。


他は、瀧川さんのお向かいしかあいていない。


ちょっと待って出直す? お持ち帰りにするとか? でもできれば今食べていきたいし、お抹茶もいただきたいし……。

もう少し待ってみたら、席があいたりしないかなあ。


困り果てる私はよほど目立っていたらしい。


瀧川さんが、どことなくざわめく店内にふと顔を上げた。


後ろを振り返って周囲を見回し、私と吾妻さんを見て、私の困り顔におそらく状況を察して——ゆっくり私を呼んだ。


「立花さん」
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