長い夜には手をとって


 うーん、とベッドの中で伸びをする。

 壁の時計は朝の9時15分を指している。いつもに比べたら十分ゆっくりしたのだけれど、布団があったかいし、どうせ予定もないし、もう少しゆっくりして――――――――・・・

 と、二度寝の体勢をとったところでベッドサイドテーブルに置いた携帯がぶるぶると振動しだした。

「――――――無視だ」

 毛布を頭まで被って呟く。

 どうせどっかの企業からの広告メールだろう、そう決めこんで無視し続けたけれど、携帯の振動はやみそうもない。いつまでもぶーぶーと文句を言い、私に起きろと命令する。

「・・・くそ。何なのよ・・・」

 メールじゃなくて電話なんだな、それで、コールももう20回くらいだよな、と思ってから、私はようやく携帯に手をのばした。

 電話ならば、休日の朝からかけてくるのはうちの母以外に考えつかない。そう思ったので相手も見ずに通話ボタンを押して、不機嫌そのものの声で言った。

「はあ~い?もう、まだ寝てるんだけどっ!」

 すると相手は一瞬言葉を失ったようで、間が空いた。

 うちの母親なら勿論、こんな間はあかない。立て板に水の勢いでこちらの都合など気にせずに喋りまくるはずだ。だから―――――――、あれ?お母さんじゃないの?

 耳から離して着信番号を確認しようとしたその時に、恐縮したような声が携帯から流れてきた。

『・・・あの、起こしてごめんね、凪子さん』

 ――――――――この低音ボイスはっ!!!


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