長い夜には手をとって



「持ってきたの、置いときました。私は帰るねー」

「あ、うん、書類ありがとう。本当に助かりました。・・・で、えーっと凪子さん、その写真」

「ん?」

「そのー・・・写真、返して」

 私は片手で持って振り続けていた写真を見て、これ?と言う。伊織君が頷いて手を出したのを見てから、ぱっと自分の鞄に突っ込んだ。

「ちょっとちょっと!」

「だって私の隠し撮りでしょ、これは私が預かります」

 え、と彼は口を開けたけれど、しばらく私を見たあとで、仕方なさそうに頷いた。何やらくら~い顔をして口を尖がらせ、ブツブツと小声で言う。

「ダメと言いたいけど言えない」

「言ってるじゃない」

「それ、すごーくいい出来だと自分でも思うんだよ。人を撮るのが苦手な俺にしては。だから・・・」

「だからーじゃないでしょ。ダメよ。これ以上私の知らない人が私のすっぴんの寝顔見るのは嫌だもの」

 私が顔をゆがめつつそう言うと、伊織君はちょっと驚いた顔をした。

「え、俺、誰にも見せてないよ」

 んなわけあるまい。私は心の中で突っ込んだ。いや、実際に片手を出して伊織君の肩をバンと叩いた。

「ならどーして鷲尾さんがこの写真を知ってるの?あの人は私のことをどこかで見た顔って言って、そうだーって思い出した結果、これが出てきたんだから」

 それによ~く考えたら、ちゃんと化粧をしてよそ行きの顔している時に、すっぴんのパジャマ姿で眠りこけているやつと同一人物だと見破られたのもかなり悔しい。化粧の意味がほとんどないではないか!


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