長い夜には手をとって

③鉢合わせ


 段々と寒さが増してきて、そろそろ冬の底か、と思える1月の最後の土曜日の夜、私は珍しく着飾って、都会へ向かっていた。

 今、派遣されている銀行の前に行っていたのは保険会社。そこで私は綾や菊池さんと知り合ったわけだけど、同じようにそこでお世話になった保険会社の社員さんに、津田さんという男性がいる。その時の彼の役職は課長だったはずだ。まだ若いのにやり手のファイナンシャルプランナーで、彼の机が私と同じ部屋の中にあったことから、色んなことを指導してもらったのだった。

 すらっとしていて銀縁の眼鏡をかけ、そして控えめ。インテリ雑誌専門のモデルさんのような外見をしているが、滅多に口を開かない上に笑わないので最初はものすごく近づき難い印象だった。だけどいざ話してみるとゆっくりと丁寧に話す男性で、話上手で愛想も調子もいい営業ばかり大量にいる保険会社の中では、色んな意味で目立つ人だった。

 その津田さんが、この度独立することになったらしい。

 保険会社に今でも勤める内勤の友達経由で電話がまわってきて、お世話になった皆でお祝いをしようということになったのだった。

 津田さんは同じ保険会社に勤める事務職の女性と結婚したらしく、子供さんも生まれて生活が安定した上に様々な人脈からの応援もあって、独立を決めたようだった。

 まあ、あの人なら何でもうまくやるだろう。私は一人で電車の中でうんうんと頷く。

 夜はやっぱり冷えるけれど、今晩だけは冷えよりも見栄えを優先させなければならない。というわけで、私は膝丈の紺色のシンプルなドレスをきて、アクセサリーで飾り、ストッキングにヒールをはいていた。


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