長い夜には手をとって


 会社にいる間は、さほど気になってなかった。

 いつもの通り回されてくる書類のデータ化をし、整理し、必要部数コピーしたりメールしたりして上司に振り分けていく。今日の昼食は同じ部署の正社員の人と一緒に食べて仕事の話をし、午後もバタバタと倉庫の整理や来客のお茶だしなどもして、きっかり6時に会社を出た。

「じゃあまた明日~!」

 そう言ってデートに向かう、華やかな格好の菊池さんに手を振ったとき、はた、と思い当たった。

 ・・・そういえば、伊織君、昼食はどうしたんだろう。

 電車に乗りながら考える。彼も一人暮らしには慣れているはずだ。何せ綾が私と住んでいた3年間は、間違いなく家族とは一緒に住んでいなかったのだから。それに旅にも慣れている。炊事は出来る・・・んだよね?

 よく考えたらそこをまだ知らない。そう思って、私は一人で頷いた。

 いつもは自分用の食材だけでいいのだけれど、これからはそういうわけにはいかないんだった!今晩から二人分いるのだ。それに、彼の昼食だってあまり足に負担をかけなくていいように、台所に立たなくても食べられる何かが必要だよね?

 地元の駅についてから、キャッシャーによってお金を下ろす。

 よし、買うぞ。

 人のために家事をするのは面倒くさい。だけど綾がいなくなってからずっと一人を感じていた私は、若干嬉しかったのかもしれない。案外笑顔で買い物をしていたようだ。会計が終わったときにふと前にある鏡の柱にうつった自分が笑顔だったので、ビックリしたくらい。


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