長い夜には手をとって


「大丈夫?」

「んー」

「よし、じゃあ始めます!」

「お願いします」

 こんな体勢では勿論ないが、人の頭を洗う経験は少しだけならある。だけどかなり久しぶりだし慎重にやらなくちゃ。お湯を出して手で温度を確かめる。それから、流しに頭を突き出した伊織君の髪をゆっくりとぬらしていく。

「・・・あー、お湯気持ちいい~・・・」

「だって久しぶりだもんねえ。寒いのにお風呂入れないのはちょっとキツイでしょう。これ、熱くない?」

「丁度いいですー」

 彼は俯いた状態なので表情は判らない。だけど、その声で気持ちいいのだろうと判った。安心してシャンプーを手であわ立てる。この子、髪が長いからな――――――・・・

 わしゃわしゃと髪を洗う。ちゃんと爪は切ってあるので、ひっかくことはないはずだ。指の腹でこすると、伊織君が大きく息を吐き出した。

「・・・寝るかも。気持ちよくて」

「それは良かった。でも今寝たら溺れるよ」

「そうだねー、それは大変・・・」

 気持ちよいらしい。私は気分をよくして、またお湯を出す。久しぶりにしては上出来じゃないだろうか!だってお客さん(ではないけれど)が喜んでるよ!

 丁寧に洗って、彼はいつもはしないようだけれど、ついでだからとコンディショナーもする。伊織君の伸びた髪はツヤツヤになった。

「終わり」

「あー、本当にありがと凪子さん。すごくスッキリしたー」


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